採用条件を設計する時、院長先生が意外と見落としがちなのが「今いるスタッフとの給与バランス」です。
たとえば、既存の視能訓練士の月給が24万円で、新しく採る人に「年齢=月給」の目安で27万円を提示したとします。経験やスキルの差があるとはいえ、既存スタッフから見れば「後から入った人の方が給料が高い」ということになります。これが院内で知られた時——そしていずれ必ず知られます——既存スタッフのモチベーションが下がり、最悪の場合は退職につながります。
1人を採るために、今いる1人を失う。これでは意味がありません。
この問題にどう対処するか
一番やってはいけないのは「新しい人の給与を低く抑える」ことです。市場の相場を下回れば、そもそも応募が来ません。
現実的な対処は2つあります。
1つ目は、既存スタッフの給与を見直すタイミングとして使うことです。新しい人を採る時に、既存スタッフの給与も合わせて調整する。「採用に合わせてうちの給与テーブルを整備した」と説明すれば、既存スタッフにとってもプラスの出来事になります。人件費は増えますが、既存スタッフの離職を防ぐコストと考えれば合理的です。
2つ目は、給与以外の条件で差をつけることです。たとえば新しい人は試用期間3ヶ月を経てから賞与の対象にする、既存スタッフには勤続手当をつけるなど、在籍年数に応じたメリットを設計しておく。月給の額面だけでなく、年収ベースや待遇全体で見た時に「長く働いている人が報われる」構造を作ることが大切です。
採用条件を決める時は、「この条件で外から人を採った時に、中の人がどう感じるか」を必ずシミュレーションしてください。これを怠ると、採用が成功しても組織が壊れます。
院長先生が条件を設計する時に見落としがちなのが、求職者は月給ではなく年収で比較しているという事実です。
月給24万円で賞与が年間2ヶ月分のクリニックと、月給27万円で賞与なしのクリニック。月給だけ見れば後者が高いですが、年収で比較すると:
・ 前者:月給24万円 × 14ヶ月(12ヶ月+賞与2ヶ月)= 336万円
・ 後者:月給27万円 × 12ヶ月 = 324万円
月給が3万円低いのに年収は12万円高い。求職者はこの計算を必ずします。だから「月給は高めに出しているのに応募が来ない」というクリニックは、賞与を含めた年収ベースで負けていないかを確認してみてください。
逆に、月給がやや控えめでも賞与が手厚いクリニックは、年収ベースでは十分に戦えます。求人票にモデル年収を明記しておくことで、月給だけで判断されることを防げます。
さらに言えば、求職者は手取り額も見ています。月給・賞与・社会保険の種類を総合して「結局、毎月いくら手元に残るのか」。ここまで考えて条件を設計できているクリニックは、同じ人件費でもより採用競争力のある条件を提示できます。
「既存スタッフとのバランスが…」という院長先生へ
新しく視能訓練士を採用しようとした時、院長先生から非常によく聞くのがこの言葉です。「今いるスタッフより高い給与で採ると、バランスが崩れるんだよね」。
たとえば、3年前に月給22万円で入職した視能訓練士が今も23万円で働いている。一方、今の市場で新しい人を採ろうとすると月給26万円を提示しないと応募が来ない。この差を既存スタッフが知ったら——「私の方が長く働いているのに、なぜ新人の方が高いの?」となるのは当然です。
しかし正直に申し上げると、多くの場合、問題は「新しい人が高い」ことではなく「既存スタッフの給与が市場相場から離れている」ことにあります。
開業以来ずっと同じ給与テーブルで運用してきたクリニックは少なくありません。物価も上がり、最低賃金も毎年改定されている中で、5年前・10年前と同じ給与水準が通用するかといえば、答えはノーです。このジレンマを「新規採用の給与を下げる」ことで解決しようとすると、採用は失敗します。かといって既存スタッフに黙って高く採ると、いずれバレて離職の原因になります。
解決策は「全体の給与テーブルを市場に合わせて見直す」こと
新しく採る人だけ高くするのではなく、既存スタッフの給与も含めて、今の市場相場に合わせて給与テーブル全体を見直す。これが根本的な解決策です。
「でも全員上げたら人件費が…」と思うかもしれません。しかし、既存スタッフが不満を持って辞めた場合に失うもの——採用コスト、教育にかけた時間、患者さんとの信頼関係——を考えると、月1〜2万円の昇給で定着してくれる方がはるかに安上がりです。
そしてもう一つ大事なのが、給与を上げるだけでなく、評価の仕組みを作ることです。昇給の基準が明確になっていれば、新しいスタッフの月給が高くても「あの人は経験○年だから」「自分もこの基準を満たせば上がる」と納得できます。逆に、評価基準がなく院長の感覚で決まっている状態だと、いくら給与を上げてもスタッフの不安は消えません。